1. はじめに
近年、視力維持や眼の健康を目的とした「目のサプリメント」が多くの製品として市場に出回っています。しかし、その中には科学的根拠が不十分な製品や、誇大広告によって消費者を誤導するものも存在します。本コラムでは、目のサプリメントの現状と、推奨される成分について科学的根拠に基づいて解説し、適切な選択を促します。
2. 目のサプリメント市場の現状
サプリメント市場は年々拡大しており、「目に良い」とされる製品も多岐にわたります。製品の多くは、ブルーライト対策、老眼予防、ドライアイ改善、視力回復などを謳っています。しかし、実際には以下のような問題点が存在します。
- 科学的根拠の欠如:一部の製品は臨床試験や科学的研究に基づいていない。
- 誇大広告:視力回復や病気の治療を保証するような誇張された表現が見られる。
- 成分表示の不透明さ:含有量が明確でない、または表示と実際の成分が異なるケースがある。
3. 科学的根拠のあるサプリメント成分
目の健康に関して、一定の効果が認められている成分は存在します。以下に、科学的研究で効果が示唆されている主要成分を紹介します。
3.1. ルテインとゼアキサンチン
- 効果:抗酸化作用により黄斑変性症の予防に寄与。
- 研究例:AREDS2(Age-Related Eye Disease Study 2)によると、ルテインとゼアキサンチンの補給は加齢黄斑変性症の進行抑制に効果があると報告されています。
3.2. オメガ-3脂肪酸(DHA、EPA)
- 効果:ドライアイ症状の緩和、網膜の健康維持。
- 研究例:複数のランダム化比較試験で、オメガ-3脂肪酸がドライアイ症状の改善に寄与することが示唆されています。
3.3. ビタミンC、E、亜鉛、銅
- 効果:酸化ストレスの軽減、加齢性眼疾患の予防。
- 研究例:AREDSの結果では、抗酸化ビタミンと亜鉛の組み合わせが加齢黄斑変性症の進行リスクを減少させることが示されています。
3.4. アスタキサンチン
- 効果:抗酸化作用、眼精疲労の軽減。
- 研究例:日本国内の研究で、アスタキサンチンが眼精疲労の軽減に寄与する可能性が示されています。
3.5. ブルーベリー?(アントシアニン)
- 効果:抗酸化作用、目の疲労感の軽減に寄与するとされる。
- 研究例:ブルーベリーに含まれるアントシアニンが一時的な視覚機能改善に効果があるとする研究もありますが、長期的な視力維持効果については十分な科学的根拠が不足しています。
4. 「老眼に効く」サプリメントについて
「老眼に効く」とされるサプリメントも多く販売されていますが、老眼(加齢性遠視)は水晶体の弾力性の低下によるものであり、サプリメントで根本的な改善が可能であるという科学的根拠は存在しません。老眼の進行を遅らせる可能性が示唆されている成分はありますが、視力回復を保証するものではありません。
5. サプリメント選びのポイント
目の健康維持に役立つサプリメントを選ぶ際には、以下の点に注意が必要です。
- 信頼できる製品を選ぶ:GMP(適正製造規範)認証など、製造過程が信頼できる製品を選びましょう。
- 科学的根拠を確認する:臨床試験や公的機関のガイドラインで効果が認められている成分を含む製品を選ぶことが重要です。
- 過剰摂取に注意:ビタミンAや亜鉛など、過剰摂取が健康リスクをもたらす成分もあるため、用法・用量を守りましょう。
- 医療機関で相談する:特定の疾患を持つ人や他の薬を服用している人は、サプリメントの摂取前に医師と相談することを推奨します。
6. まとめ
目のサプリメントは、正しく選べば眼の健康維持に役立つ可能性があります。しかし、科学的根拠が不十分な製品や誇大広告には注意が必要です。信頼できる情報源に基づいて製品を選び、医療機関での相談を忘れずに行いましょう。
参考文献
- Age-Related Eye Disease Study Research Group. “A Randomized, Placebo-Controlled, Clinical Trial of High-Dose Supplementation with Vitamins C and E, Beta Carotene, and Zinc for Age-Related Macular Degeneration and Vision Loss: AREDS Report No. 8.” Archives of Ophthalmology. 2001.
- Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) Research Group. “Lutein + Zeaxanthin and Omega-3 Fatty Acids for Age-Related Macular Degeneration: The AREDS2 Randomized Clinical Trial.” JAMA. 2013.
- Barabino S, et al. “Role of omega-3 fatty acids in the treatment of dry eye disease.” Ophthalmology. 2011.
- Nakagawa K, et al. “Effects of astaxanthin on accommodation and asthenopia.” Journal of Clinical Therapeutics & Medicine. 2012.
- Kalt W, et al. “Anthocyanins, antioxidants, and eye health.” Journal of Agricultural and Food Chemistry. 2010.
- Chao DL, Rhoades WR, Parmar DR. “Advances in Retinal Gene Therapy”. Annual Review of Vision Science. 2019;5:167-188.
- Kurimoto Y, et al. “Autologous induced pluripotent stem-cell-derived retinal cells for macular degeneration”. The New England Journal of Medicine. 2014;370(21):2080-2086.