1. はじめに
「はやりめ」とは、正式には流行性角結膜炎を指す俗称で、非常に感染力の強いウイルス性結膜炎の総称としても使われます。この疾患は学校や職場などで短期間に多くの人へ感染し、特に子どもから大人まで広く影響を及ぼします。本コラムでは、はやりめの原因、症状、対処法、予防策について詳しく解説し、参天製薬から発売されている唯一のウイルスを殺すことができる薬「サンヨード」についても紹介します。
2. 原因となるウイルス
はやりめの主な原因は以下のウイルスです。
- アデノウイルス(特に8型、19型、37型):流行性角結膜炎の主要な原因で、非常に強い感染力を持ちます。
- エンテロウイルス70型、コクサッキーウイルスA24型:急性出血性結膜炎の原因となることがあります。
- アデノウイルス3型、4型、7型:咽頭結膜熱(プール熱)の原因となります。
これらのウイルスは、感染者の涙液、眼分泌物、汚染された物品を介して容易に拡散します。
3. 主な疾患と症状
3.1. 流行性角結膜炎(EKC:epidemic keratoconjunctivitis)
症状:結膜の充血、目の異物感、かゆみ、涙目、目やにの増加、まぶたの腫れ、光過敏症、角膜炎(霧視や視力低下を引き起こすことがある)
3.2. 咽頭結膜熱(Pharyngoconjunctival Fever)
症状:結膜炎、発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹。プール熱としても知られており、特に子どもたちの間で夏季に流行しやすい疾患です。
3.3. 急性出血性結膜炎(Acute Hemorrhagic Conjunctivitis)
症状:突然の目の充血、強い痛み、まぶたの腫れ、結膜下出血(目が真っ赤になる)、異物感。非常に短期間で発症し、急速に進行するのが特徴です。
4. 対処法
現在、はやりめには特効薬は存在しませんが、症状の緩和と合併症予防のための治療が行われます。
- 人工涙液:乾燥感や異物感の軽減に有効。
- 抗炎症薬(ステロイド点眼):角膜炎が進行した場合、医師の指導のもとで使用することがあります。
- 抗ウイルス薬:参天製薬から発売されている「サンヨード」は、ウイルスを直接殺すことができる唯一の薬です。適切な使用でウイルスの排除と症状の改善が期待されます。
5. 予防策
感染拡大を防ぐために、以下の予防策が重要です。
- 手洗いの徹底:石鹸と流水で頻繁に手を洗うこと。
- 顔や目に触れない:特に外出先では目をこすることを避けましょう。
- タオルや目薬の共有禁止:家庭内でも個人専用のものを使用します。
- 感染者との接触を避ける:感染者は学校や職場を休むことが推奨されます。
6. 学校や職場での対応
- 出席停止の推奨:感染が確認された場合、症状が治まり、医師の許可が出るまで登校・出勤を控えることが推奨されます。
- 消毒の徹底:ドアノブ、机、共有物などの定期的な消毒が重要です。
6.1. 消毒の具体例と注意点
- 使用する消毒剤:次亜塩素酸ナトリウム(0.05〜0.1%濃度)が効果的で、ウイルスの不活化に有効です。特にドアノブ、机、手すりなどの共有物は定期的に消毒しましょう。
- アルコール消毒の有効性:アデノウイルスはアルコール(エタノール)耐性があるため、一般的なアルコール消毒(70%濃度)では不十分です。したがって、次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒剤の使用が推奨されます。
7. まとめ
はやりめは非常に感染力が強い疾患ですが、基本的な衛生管理と迅速な対応で感染拡大を防ぐことが可能です。症状が現れた場合は早期に眼科を受診し、適切な治療を受けることが重要です。また、「サンヨード」のような新しい治療薬も登場しており、今後の治療の選択肢が広がることが期待されています。
参考文献
- Jernigan DB, et al. “Epidemic Keratoconjunctivitis: Clinical Features and Management.” Ophthalmology. 2010.
- Gonzalez G, et al. “Adenovirus Infections in the Eye: A Review.” Journal of Clinical Virology. 2014.
- 参天製薬. “サンヨード製品情報.” 2024.
- 日本眼科学会. “流行性角結膜炎のガイドライン.” 2023.