1. はじめに
近視矯正手術は、メガネやコンタクトレンズに頼らずに視力を改善するための治療法として、多くの人々に選ばれています。代表的な手術には、レーシック(LASIK)、フェイキックIOL(ICL)、PRKなどがあり、それぞれに特徴とリスクがあります。本コラムでは、近視矯正手術のメリットとデメリット、そして将来的に考えられる合併症について詳しく解説します。
2. 主要な近視矯正手術の種類
2.1. レーシック(LASIK)
角膜をレーザーで削ることで角膜の形状を変え、屈折異常を矯正する手術です。
- メリット:
- 手術後すぐに視力の改善が期待できる
- 手術時間が短く、回復も早い
- デメリット:
- 角膜が薄い人には適さない
- ドライアイのリスクが高まる
2.2. フェイキックIOL(ICL)
眼内にレンズを挿入して視力を矯正する手術で、角膜を削る必要がありません。
- メリット:
- 高度近視にも対応可能
- 角膜を削らないため、可逆性がある(レンズの取り外しが可能)
- ドライアイのリスクが少ない
- デメリット:
- 高額な費用がかかる
- 白内障や緑内障のリスクがわずかに増加する可能性
- 手術後に定期的な経過観察が必要
- 低度近視には推奨されない:低度近視の場合、手術によるメリットが少なく、手術リスク(感染、白内障リスクなど)を上回る利点が得にくいためです。
2.3. PRK(Photorefractive Keratectomy)
角膜の表面をレーザーで削る方法で、角膜が薄い人にも適応可能です。
- メリット:
- 角膜が薄い人でも施術可能
- 長期的な視力安定性が期待できる
- デメリット:
- 術後の痛みが強く、回復に時間がかかる
- 視力の安定までに数週間かかる
- 角膜混濁のリスクがある
3. 近視矯正手術の適応基準
- 適応となる近視の度数:
- レーシック:おおよそ -1.0D から -6.0D までの近視に適応。高度近視では角膜の削除量が多くなるため、角膜強度の低下リスクが増加するため注意が必要です。
- ICL:おおよそ -6.0D 以上の中等度から高度近視に適応。低度近視(-6.0D未満)では、手術のリスクとコストに対して得られるメリットが少ないため、推奨されません。
- PRK:軽度から中等度の近視に適応。
- 年齢:
- 一般的に 21歳以上 で視力が安定していることが条件とされます。
- 成長期の未成年者には適応外とされることが多いです。
- 自費診療:
- 近視矯正手術は すべて自費診療 となり、保険診療の適用はありません。さらに、近視矯正手術後の診療についても何年経過しても保険診療の適用はされません。術後の合併症や関連する検査、治療も同様に自費扱いとなります。
- ICL術後に白内障手術が必要となった場合、ICLの抜去にも新たに自費診療費用が発生します。この点も事前に十分な確認が必要です。
4. 近視矯正手術のメリット
- 視力の回復:多くの患者が裸眼での良好な視力を得ることができます。
- メガネ・コンタクトからの解放:日常生活やスポーツでの利便性が向上します。
- 長期的なコスト削減:コンタクトレンズやメガネの維持費用を考えると、長期的には経済的なメリットもあります。
5. 近視矯正手術のデメリットとリスク
- 術後合併症:
- ドライアイの悪化
- 夜間視力障害(ハロー、グレア)
- 視力の再低下:年齢とともに視力が再び低下することがあり、再手術が必要になる場合もあります。
- 角膜拡張症(エクタジア):角膜が薄く弱くなることで、視力の歪みが進行する稀な合併症です。
6. 将来的に考えられる合併症
- 白内障の進行:特にICL手術では、長期的な眼内レンズの存在が白内障の発症リスクをわずかに高める可能性があります。
- 緑内障のリスク:ICLでは眼内圧の変化が起こることがあり、緑内障の発症に注意が必要です。
- 加齢による視力変化:老眼(近くの物が見えにくくなる現象)は手術では防げません。中年期以降は老眼鏡が必要になる場合があります。
7. 手術を検討する際のポイント
- 適応検査の重要性:角膜の厚さや形状、眼内の状態を正確に評価する必要があります。
- 医師との十分な相談:手術のリスク、期待できる効果、術後のケアについてしっかり理解した上で決断することが重要です。
- 術後の経過観察:定期的なフォローアップで、術後の合併症を早期に発見・対処することができます。
8. まとめ
近視矯正手術は、多くの人にとって視生活の質を向上させる有効な手段ですが、メリットだけでなくリスクや将来的な合併症についても理解することが重要です。十分な検査と信頼できる医師との相談を通じて、自分に最適な選択を行うことが、長期的な視力の健康維持につながります。
参考文献
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