1. はじめに
現代社会において、スマートフォンやパソコン、タブレットなどのデジタルデバイスは日常生活に欠かせない存在となっています。しかし、これらの長時間使用は「眼精疲労(がんせいひろう)」と呼ばれる目の疲れを引き起こし、視力低下や身体の不調にまで影響を及ぼすことがあります。本コラムでは、眼精疲労の原因、症状、予防法について詳しく解説し、現代人に警鐘を鳴らします。
2. 眼精疲労とは
眼精疲労は、目の酷使によって一時的な疲れでは収まらず、十分な休息を取っても改善しにくい目の不快感や視覚異常を指します。単なる目の疲れ(眼疲労)とは異なり、慢性的な症状を伴うことが多く、生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります。
3. 眼精疲労の主な原因
3.1. デジタルデバイスの過剰使用
- 近見作業の増加:スマートフォンやパソコンの画面を長時間凝視することで、目のピント調節機能(毛様体筋)が緊張状態を続け、疲労が蓄積します。
- ブルーライトの影響?:かつてブルーライトが眼精疲労の主要因とされてきましたが、近年の研究では、ブルーライトカット眼鏡の使用・不使用による眼精疲労の軽減効果に有意差がないことが示されており、ブルーライトの影響は限定的である可能性が指摘されています。
- 瞬目回数の減少:画面を凝視することでまばたきの回数が減少し、ドライアイを引き起こしやすくなります。
3.2. 環境要因
- 不適切な照明:暗い場所や強すぎる照明の下での作業は、目への負担を増加させます。
- 姿勢の悪さ:猫背や首を前に突き出す姿勢は、首・肩こりを引き起こし、これが眼精疲労の一因となることがあります。
3.3. 目の疾患や全身疾患
- 屈折異常(近視・遠視・乱視)の未矯正
- ドライアイ症候群
- 老眼(加齢による調節力の低下)
- 自律神経の乱れや精神的ストレス
4. 眼精疲労による周辺症状
- 視覚的症状:かすみ目、ぼやけ、二重に見える、視力低下
- 身体的症状:頭痛、首・肩こり、吐き気、めまい
- 精神的症状:イライラ感、不安感、集中力の低下
これらの症状は、単なる目の不調にとどまらず、仕事や学業のパフォーマンス低下、日常生活への支障を引き起こします。
5. 眼精疲労と近視の重症化
近年、特に子どもや若年層において、長時間のデジタルデバイス使用が近視の進行を加速させていることが懸念されています。
- 近見ストレス:長時間の近距離作業は、目の調節機能に過度な負担をかけ、近視の進行を促進します。
- 屋外活動の不足:自然光を浴びる時間の減少が、近視進行の一因とされています。
6. 眼精疲労の予防と対策
6.1. 20-20-20ルール
- 20分ごとに20フィート(約6m)先を20秒間見る:これにより、目の緊張をほぐし、調節機能をリセットします。
6.2. 画面環境の改善
- 適切な照明の確保:画面と周囲の明るさのバランスを保つ。
- 画面の高さと距離:目の高さと同じかやや下に配置し、40〜50cmの距離を保つ。
6.3. 生活習慣の見直し
- 適度な屋外活動:自然光を浴び、遠くを見ることで目の健康を維持。
- 十分な睡眠:目の疲労回復には良質な睡眠が不可欠。
- 定期的なまばたきと目のストレッチ
6.4. 眼科での定期検診
- 屈折異常やドライアイの早期発見・治療:適切な矯正や治療を受けることで、眼精疲労の予防・改善が可能です。
7. まとめ
眼精疲労は現代人にとって身近な問題ですが、放置すると視力の低下や全身症状の悪化を招く可能性があります。デジタルデバイスの利便性を享受する一方で、適切な目のケアを心がけ、健康な視生活を維持することが重要です。日常生活での小さな工夫が、未来の目の健康を守る第一歩となります。
参考文献
- Sheppard AL, Wolffsohn JS. “Digital eye strain: prevalence, measurement and amelioration.” BMJ Open Ophthalmology. 2018.
- Rosenfield M. “Computer vision syndrome: a review of ocular causes and potential treatments.” Ophthalmic and Physiological Optics. 2011.
- 日本眼科学会. “VDT作業における目の健康管理ガイドライン.” 2020.
- Lawrenson JG, Hull CC, Downie LE. “The effect of blue-light blocking spectacle lenses on visual performance, macular health and the sleep-wake cycle: a systematic review of the literature.” Ophthalmic and Physiological Optics. 2021.
- Singh S, et al. “Do Blue Light-Blocking Lenses Reduce Eye Strain Associated with Digital Device Use? A Randomized Controlled Trial.” American Journal of Ophthalmology. 2021.