近視進行抑制治療とは
日照不足や近見作業(近くを見て作業すること)の増加により、子ども達の近視の増加・重症化が問題となっています。その一方で様々な研究により、近視の進行を予防する方法が開発されています。しかし中には、はっきりとした証拠もなく行われているような治療法が横行していることも否めません。ここでは、既に安全性および有効性が示された治療法についてご紹介致します。
なお、近視進行抑制治療は保険の適応は出来ません。全て自費診療となります。
低濃度アトロピン点眼
本来の 1%アトロピン点眼は、目のピントを調節する筋肉を麻痺させる目的の薬です。1滴点眼しただけで 1 週間は瞳孔が広がった状態になってしまいます。これは本来、子どもの弱視や斜視の検査・治療に使われてきた物ですが、これを点眼することで近視の進行が抑制されることが分かっていました。しかし瞳孔が広がった状態になると眩しく、そして近くの物にピントが合わなくなってしまいますので、日中の活動に大変な支障が出てきてしまいます。
ところが 100 倍に薄めた 0.01%の濃度でも 6 割近い効果が出ることが分かり、現在では世界的に最も広く行われるようになりました。低濃度のためほとんど副作用が出ず、1 日 1 回、就寝前に点眼するだけですので大変簡便な方法です。ただし効果は人によってまちまちで、十分な効果を発揮できないこともあります。
当院では低濃度アトロピン点眼の処方をおこなっております。料金については、直接お問い合わせください。
多焦点ソフトコンタクトレンズ
多焦点ソフトコンタクトレンズは本来、老眼に対応したコンタクトレンズ(遠くにも近くにもピントが合う)ですが、子どもが使用すると近くを見るときの負担を軽減することにより、近視の進行抑制効果が得られることが分かっています。後述のオルソケラトロジーに比べ、強度の近視にも対応でき、またソフトレンズであるため刺激も少なく導入しやすいことが特徴です。
その反面、日中に装用することから、学校などで何らかのトラブルがあった際には、自分で外すなどの対応が必要であり、自身でコンタクトレンズを管理できる、比較的大きなお子様向けと言えるでしょう。
当院では多焦点ソフトコンタクトレンズの処方をおこなっております。料金については、直接お問い合わせ頂きますようお願い申し上げます。
累進屈折力眼鏡
累進屈折力眼鏡は、遠近両用の眼鏡の発展形とも言うべき眼鏡で、近くから遠くの物まで、連続的にピントが合うように度数が組み合わさっているレンズの眼鏡です。先述の多焦点ソフトコンタクトレンズと原理は同じで、一定の近視進行抑制効果が得られます。
ソフトコンタクトレンズすら適応できない、小さなお子さまの場合でも装用が可能であり、大変導入しやすいのが特徴です。しかし一方で、効果はそれほど大きくなく成長に伴って微調整が常に求められる為、当院では採用しておりません。
オルソケラトロジー
オルソケラトロジーは、オルソ-K レンズという特殊なハードコンタクトレンズを就寝中に装用する方法です。角膜を扁平化させることにより日中の視力を良好にし、また高い近視進行抑制効果があることが分かっています。歴史も長く、有効性と安全性に優れた方法のひとつと言えるでしょう。しかし、ハードコンタクトレンズであるがゆえに、そもそも装用できない方も一定数いますし、適切な管理・監督が必要になってきます。
また、従来のハードコンタクトレンズとは、原理・レンズデザイン・フィッティング・使用方法などが異なるため、治療を行うには所定の講習会を受講し、専門のトレーニングを受けた眼科専門医にしか許されておりません。
当院ではオルソケラトロジーを行っております。
レッドライト治療法(red light therapy)
レッドライト治療法は、波長650nmの赤色光が近視の進行抑制に強い効果があるというというものです。まだ新しい治療法で、今後更なる治験や長期的な検討も必要です。専用の機械をのぞき込み、1日2回、1回3分赤色光を見ているだけで、毎日必ず行うことを100%としたら、75%行うことの出来た場合に90%近くの近視進行抑制効果が見られたという画期的な治療法です。
適応年齢が3~16歳と限られており、貸与に関する初期費用の他メーカーに支払うサブスクリプション料金がかかります。また、オルソケラトロジーとの併用は出来ますが、低濃度アトロピン点眼との併用は出来ません。
屋外活動
海外では遺伝的な要素の有無にかかわらず、屋外活動が長いほど近視になりにくいというデータが報告され、このことから太陽光に含まれるバイオレットライト(可視光、360~400nm)が EGR-1 という遺伝子に作用することで近視の進行抑制効果が得られると考えられています。この波長の光は照明では得られず、またガラスも透過しない為、室内で再現することは不可能です。
近視進行抑制治療はお金をかけずとも出来ることはあります。曇り空でもバイオレットライトを浴びることは出来ますので、最低 1 日当たり 2 時間は屋外での活動をするようにすると良いでしょう。
定期的な休憩
もうひとつ、お金をかけずに出来ることがあります。それは手元を見る作業(勉強やゲーム、スマホ等)の最中に、目を疲れないように配慮することです。手元から 30cm 以上離して作業するようにし、20 分ごとに 20 秒間、20 フィート(6m)先を眺めるようにすることで、一定の近視進行抑制効果を得ることが出来ます。
サプリメント
サフランやクチナシの色素である、クロセチンを 1 日 1 錠内服することにより、近視進行抑制効果が認められたという物です。6~12 歳の小児にクロセチンを内服させたところ、近視進行の原因である眼軸長(眼球の前後の長さ)の伸び方が、14%抑制されたという研究報告が出ています。これは、屋外活動のコラムで既にご紹介した EGR-1 という遺伝子の発現量を増やす効果があることによります。希望される方には取り寄せが可能です。価格は 3000 円(税別・1 ヶ月分)です。